惚れ薬のサクッとあらすじ!
まずは、登場人物と簡単なあらすじを見ておこう♪
- 茂平(もへい)…気弱でのんびり屋。
- 熊蔵(くまぞう)…茂平から『兄貴』と呼ばれている。茂平のために惚れぐすりを作る。
- 茂平はある日、米問屋の娘を好きになる。しかし、気弱でのんびり屋の茂平は、なかなか思いを伝えられない。そこで、『兄貴』と慕っている熊蔵に相談する。
- 熊蔵は茂平のために『惚れぐすり』の粉を作る。相手にふりかけると、好きになってもらえるのだ。
- しかし、タイミングがつかめず、空振りばかり。なかなか米問屋の娘にふりかけられない。そのうち、とうとう貧乏神に振りかけてしまった。
- 貧乏神に好かれてしまった茂平は、恋愛どころではなくなり、必死に働かなければいけなくなった。しかし、気づくと茂平は立派な大金持ちの青年になっており、米問屋の娘よりも美しいお嫁さんをもらって、幸せに暮らしましたとさ。
惚れ薬のあらすじ!
むか~し、むかし。
和歌山の山里に、茂平(もへい)と熊蔵(くまぞう)という2人の若者がおりました。
気弱でのんびり屋の茂平は、がっちりした体をしていて頼りがいがある熊蔵のことを『兄貴、兄貴』と呼んで、したっていました。
ある日、熊蔵が茂平の家に行ってみますと、なにやら茂平の様子が変です。
「どこか具合が悪いんか? 心配事があるなら、言うてみ? 茂平。」
と心配する熊蔵に、茂平は最初、もじもじして、なかなか切り出せずにいましたが、やがて
「兄貴! 聞いてくれ!」
と、思い切って相談しました。
茂平は『おはなはん』に、すっかり片思いしていたのです。
おはなはんは、本町(ほんまち)の米問屋の一人娘で、べっぴんさん。
一度会って告白したいけど、気弱な茂平は遠くから見つめるのが精一杯。
とてもとても、声などかけられずに、ほとほと困っていたのです。
「うははは。おめぇも、なかなか、すみにおけん! 急に色気づきおってからに!
おうおう、そんなことやったらな、この熊蔵に、任せておけい!」
珍しいものが大好きな熊蔵は、いつか大阪に行った時に、唐の薬屋から『イモリの黒焼き』を買っていたのです。
さっそくそれをすりつぶし、『イモリ』と聞いただけで怖がる茂平に
「間違って他の者にかかったら最後、おめぇに惚れてしまうから、くれぐれも気をつけなアカンぞ」
とアドバイスして渡しました。
茂平は大喜び。
熊蔵に言われた通り、次の日の朝早くから、さっそく米問屋の表に立ち、おはなはんが出てくるのを待ちました。
しかし、商人が出入りするばかりで、なかなか、おはなはんは出てきてくれません。
やっと出てきた! と思ったら、鬼ババのような顔をしたおばあさんと一緒でした。
それでも茂平は、えいっ!と目を固くつぶっておはなはんの前に飛び出し、袋の中の惚れ薬を振りかけました。
ところが…
いつの間にやら、おはなはんより、おばあさんの方が前にいて、
惚れ薬は、おばあさんの方にかかってしまったのです!
さぁ、大変!!
茂平に一目惚れしたおばあさんが追いかけてきます!
茂平は、必死で逃げ、家の扉にしっかり鍵をかけると、頭から布団をかぶって、がたがた震えておりました。
そこへ
ドンドンドン!
ドンドンドン!
扉を荒々しく叩く音がしました。
「出てってくれ、ばあさん!」
と震える茂平。
しかし、訪ねてきたのは熊蔵でした。
熊蔵に事情を話し
「どないしよう、兄貴…
でもわし、やっぱり、おはなはん好きやし…
わしゃぁ、もう、アカンのかなぁ」
と、茂平は涙ぐみました。
「アカンことないがな!」
熊蔵は、力強く茂平の肩を叩いて励ましました。
そして
「今度は、おはなが一人で出てくるのを待てばええんやないかい。」
そう言って、もう一度惚れ薬を作ってくれました。
その翌日。
さっそく茂平は、米屋に行きました。
今度こそ、おはなは一人で出てきました。
「おはなはん、ごめーん!」
茂平は、今度こそしっかり目を開けて、おはなめがけて、惚れ薬をまきました。
ところが…
横から、さささっ! と黒い影が2人の間を邪魔しました。
なんと、貧乏神です!!
昨日のおばあさんとは違って、貧乏神の足の、早いこと、早いこと…
それでも茂平は、なんとか家に逃げ込んで、扉をしっかりしめました。
「助かった、よかった…」
茂平は、ぜぇぜぇと荒い息を吐きました。
ところが…
「へっ、へっ、へっ。お世話になりますよ。」
貧乏神はもう既に家の中に入っていて、ちゃっかりご飯まで食べていたのです!
それからというもの、茂平は、もう恋にうつつを抜かしている場合ではなくなってしまいました。
毎日、毎日、貧乏神に追い回され、稼いでも、稼いでも、食べていけないありさまでした。
それでも茂平は、脇目もふらずに、毎日、必死になって働きました。
そのうちに、気弱で臆病だった茂平は、立派な働き者になっていきました。
やがて大金持ちの主人になって、おはなはんより、はるかに美人なお嫁さんをもらった、ということです。
惚れ薬のまとめ、教訓と感想!
『惚れぐすり』は、登場人物が話す関西弁もあいまって、とてもテンポの良い笑い話です。
熊蔵は名前の通り、木彫りのクマのように、なんともいかつめらしい顔をした男です。
それが、気弱な茂平の恋をなんとか実らせようと、恋のキューピッドを買って出るところが、なんとも可愛らしいですね。
こんなに熊蔵が知恵をきかせ、アドバイスして頑張っているのに対して、茂平のなんともいえない情けなさ。
大好きなおはなはんの顔も見られずに薬をかけてしまうほどです。
きっと、惚れぐすりをかけるのに成功しても、まともにおはなはんと、おしゃべり出来なかったのではないでしょうか(笑)
しかし、茂平は最後に、真面目な男らしさを見せてくれます。
貧乏神にとりつかれたら、心がぽっきり折れて寝込んでしまっても不思議ではありませんが、茂平は根性を発揮して負けずに貧乏と戦い、そのうち、自分の心の弱さまでやっつけてしまいました。
『三つ子の魂百まで』といいますが、自分の心のクセをなおすのは、本当に大変です。
その点では
「茂平、よくやったね」
と、茂平をほめていいでしょう。
が…
一方で、おばあさんも、貧乏神も、本当に可哀想です。
相手の気持ちはおかまいなしに、惚れ薬を振りかけて、無理やり自分を好きにさせたあげくに
「お前なんかきらいだ!」
と、捨ててしまうなんて。なんて自分勝手でひどい話でしょう。
やはり、好きになった人には、怪しげな薬なんて使わずに、実力勝負でアタックしたい所ですね。
これ、小さな子が見て意味が分かるのかなぁ…?
小学校中学年~高学年向けのお話だと思うよ。