さだ六とシロのサクッとあらすじ!
まずは、登場人物と簡単なあらすじを見ておこう♪
- さだ六…領主から『天下御免の免状』を受けている、名うての猟師。
- シロ…白くて大きな秋田犬。さだ六の狩猟の相棒。
- 『猟師は、よその領地で猟をしてはいけない』というおきてがあった。ある冬の日、さだ六は青イノシシを追って隣の領地の三戸に入った。翌日の帰り道、さだ六は三戸の武士達に見つかる。さだ六は、領主様から『天下御免の免状(これがあれば、全国どこでも猟ができる)』を授かっていたので安心していた。
- しかし、さだ六はその大切な免状を、うっかり家に忘れてきてしまっていた。さだ六が免状のことを話しても、三戸の役人は誰も聞き入れてはくれない。ついにさだ六は「明日、死刑を執り行う」とお代官様に言われてしまった。
- 牢屋に入れられたさだ六は、賢いシロに、『天下御免の免状』を持ってきてくれるように頼む。シロはさだ六のピンチを救うため、十里(約40km)以上離れた家に向かって駆け出した。
- シロが戻ってきた時には、既に死刑が行われてしまった後だった。シロはさだ六の亡骸を家までひきずろうとしたが、領地にさしかかった丘の上で、ついに力尽きてしまった。
さだ六とシロのあらすじ!
むか~し。
秋田県の山奥にあった鹿角(かづの)の領土に、さだ六という猟師がおりました。
当時、『猟師は、よその領地で猟をしてはいけない』というおきてがありました。
が、さだ六は名うての名人だったため、将軍様から特別に『どこでも自由に猟をすることのできる証文』をいただいておりました。
さだ六はシロという、雪のように真っ白で、子牛のように大きな秋田犬を飼っていました。
シロは子犬の頃からさだ六にかわいがってもらっていたので、さだ六にとても懐いておりました。
さだ六がここまで名のある猟の名人になれたのは、目も鼻もよく利く、賢いシロのおかげでもありました。
ある冬の日のこと。
どういうわけだか、この日に限って、さっぱり獲物が見つかりませんでした。
あと一山越えれば、隣の国の『三戸(さんのへ)』です。
さだ六があきらめて帰ろうとした時…
シロが青イノシシを発見しました!
名うてのさだ六でさえ見たことがないほどの、それはそれは立派な青イノシシです!
一発弾を命中させましたが、青イノシシはなおも逃げていきます。
「逃がすな! 逃がすでねぇどっ!」
手負いにした青イノシシを夢中で追いかけているうちに、とうとうさだ六達は、三戸に入り込んでしまいました。
青イノシシを追いかけて行ったシロは、ほら穴に向かってしきりに吠え立てていました。
中には手負いにした青イノシシがぐったりと横たわり、そのそばには、小さなうり坊が二匹、心配そうに身を寄せていました。
(猟師のさだめだで、許せ!!)
さだ六は震える手で青イノシシに向かって銃を構えました。
その夜、吹雪に閉じ込められたさだ六は、ほら穴の中で野宿しました。
さきほどの青イノシシの親子の姿が、さだ六の脳裏に鮮明に焼き付いて離れません。
胸の中を、シーンとした冷たい風が吹き抜けて、みじめな思いでいっぱいでした。
次の日。
さだ六は親子の青イノシシをソリに乗せ、朝早くに、ほら穴を出ました。
家に戻るには、いくつもの峠を越さなくてはなりません。
深いブナの森にさしかかったときでした。
「お主、どこの者じゃっ!」
三戸の役人達にたずねられました。
「オラ、隣領のさだ六という者じゃが。」
「隣領の者が、三戸領で領をするとは、どういうわけじゃっ!
よその領地で狩猟をすることは、禁じられとる!!
お主も知っとろう!」
「ワシは将軍様から天下御免の証文を受けた狩人だ。
証文さえあれば、どこの領で狩猟をしようと自由なはず…
これ、この巻物じゃ。」
さだ六は懐から証文を懐から出そうとしましたが…
「ハッ! 無いっ!!
しまった、証文を忘れてきただっ!」
「こいつ、いい加減なことをぬかしおって! ひっとらえろ!!」
「ま、待ってくれ!
本当に家に忘れてきただっ!!」
役人たちは有無を言わさずにさだ六をひっとらえ、お代官様の前に差し出しました。
「家に帰れば、必ずあるだで!」
さだ六は必死で申し開きをしましたが、お代官様はおっしゃいました。
「明日、処刑を執り行う!!」
冷たい牢屋に入れられてしまったさだ六。
目の前にはシロしかいません。
「シロ… お前が人間じゃったらのぅ…
…そうだ!
シロ、お前なら分かるか?
証文じゃよ。いつも神棚の下へ置いといたじゃろっ!?」
さだ六は、わらにもすがる思いでシロに頼みました。
「ワンッ!」
シロは一声、高らかに吠えると、弾丸のように駆け出していきました。
「頼んだぞ~っ、シロ~!!」
シロは一晩中、走り続けました。
そうして、さだ六の家についたのは、夜明け近く。
シロにはすぐに、証文のありかが分かりました。
シロはそれをくわえると、休むこと無く、さだ六の所へ向かって、来た道を戻りました。
早く、早く、早く…っ!!
「お願いですだ。
シロという犬が戻って来ますまで、もう少しだけ、待ってくだせぇっ!!
シローッ!
シローッ!!」
さだ六は叫びましたが…
「斬れ!」
さだ六の声をかき消すかのように、執行人の冷たい言葉が響き渡りました。
そのとき。
どこからともなく、さだ六の耳に天の声が聞こえました。
『傷ついた青イノシシと、いたいけな二匹の子どもを…』
「そうか…
神様!
許してくだせぇっ!!」
しかし、ようやく戻ってきたシロが見たものは、全身をわらに包まれて、凍えた野原に打ち捨てられていた、さだ六の姿。
ぽとり…
シロは将軍様の証文を地面に落とすと、代わりに、さだ六のむしろをしっかりとくわえました。
そうして、雪の上を、家に向かって、ずるずるとひきずり始めました。
いくつもの山を越え、ようやく自分の領土に戻ってきましたが、シロは、峠の上で、とうとう力尽きてしまいました。
「ワォーン!!」
シロの哀しい遠吠えが、三戸領に向かって響き渡ります。
そうしてシロは、そのまま、石になってしまいました。
今でもこの峠を『犬吠え峠』と呼ぶそうです。
さだ六とシロのまとめ、教訓と感想!
シロはなんて賢く、忠義心の厚いわんちゃんでしょうか。
聞くも涙、語るも涙のお話ですね。
これは江戸時代に実際に起こったお話で、岩手県の北の方では、『忠犬ハチ公』と並んで有名なお話だそうです。
それにしても、ちゃんと領主様から免状をいただいたにも関わらず、ろくすっぽ調べもしないで処刑してしまう、なんて、現代人の私達からみると、あまりにも横暴なお裁きに思えますよね。
今だったら、例えば運転免許証を家に置き忘れても、3,000円の罰金ですみます。
運転免許証はゴールドのまま。
点数は加点されません。
しかし当時は、領土が違えば、もうそこは『隣国』。
たとえ同じ日本と言えども、まるで外国にでも行ったかのような処遇の違いを感じていたものでした。
しかも、ネット社会の今とは違い、本当にさだ六が天下御免の証文を持っているか、なんて、そう簡単には調べようもありません。
お代官様の心ひとつで、無実の罪で処刑されてしまった人もたくさんいました。
今でも冤罪はありますが、さだ六とシロのことを思うと、文明の発展に、改めて感謝する気持ちが湧いてきますね。
大館市の公式HPでは、あらすじとは少し違うシロの伝説が残されています。
実は定六には奥さんがいました。
シロは家に戻って奥さんに一生懸命伝えようとしましたが、奥さんには何のことやらさっぱり伝わらなかったのです。
あきらめたシロは、何も持たずに定六の所に帰りました。
定六は再び、今度はしっかりと免状のありかをシロに教えて、持ってくるように頼みました。
シロは仏壇の下で吠え、ようやく奥さんも、免状に気が付いて、シロの首輪に結びつけたのです。
つまりシロは、片道約40kmの距離を、休む間もなく二往復もしたのです!
無実の罪で大好きな定六を捕らえられ、80kmも走ったのに、頑張ったかいもなく処刑が執行されてしまったのですから…
シロの恨みの念はどんなに強かったか、自ずと計り知れますね。
定六が処刑されてしまってからは、何日も哀しいシロの遠吠えが三戸の城下に響き渡りました。ついには天変地異まで起きて、定六の処刑に関係した人々は全員、無残な死を遂げたそうです。
しかし実は、その時には、まだシロは生きていた、というから驚きです!
さながら『生き霊』というやつでしょうか。
その後、シロは定六の奥さんともども、所払いを受けて、葛原(かずはら)に移り住みました。そして、いつしかシロの姿は消え、ようやく近くの丘で発見された時には、白骨化した死骸となってしまっていました。
それからというもの、武士が葛原の山の下の津軽街道を通りかかると、馬が大暴れして武士が怪我をする、という事件が立て続けに起こりました。
怪我をするのは武士だけなので、『武士に定六を殺されてしまったシロのたたりだ』と村人達は噂をし、山頂に『老犬神社』を建立し、シロの魂を鎮めました。
今でも老犬神社では、毎年4月に例大祭を行っています。
天変地異を鎮める他、五穀豊穣・家内安全・交通安全などをお祈りしているそうです。
『本宮祭』には一般の人たちもお参り可能だそうなので、機会があれば、一度行ってみたいものですね。
こんなにご主人様のために頑張ったのに、思いが報われなかったシロがあまりにも可哀想。
涙が止まらないよ…