狐女房のサクッとあらすじ!
まずは、登場人物と簡単なあらすじを見ておこう♪
- 成信(なりのぶ)…早くに両親を亡くし貧乏なため、お嫁さんをもらえないでいたお百姓。
- 娘…行くあてもなく旅をしている道中、熱を出して倒れたところを、成信に助けられた。
- もりめ…成信と女の間に出来た、男の赤ちゃん。
- ある夏の日、お百姓の成信は、熱で倒れた娘を助けて看病する。娘は行くあてがなく、成信とこのまま一緒にいたいと言ったので、その年の秋、二人は結婚することになった。『もりめ』というかわいい男の赤ちゃんも授かった。
- あるとき、もりめが重い病にかかってしまい、成信は畑仕事を休んで女房と二人、せっせともりめの看病をした。数日後、もりめが回復したときには、成信の畑はすっかり荒れ果てていた。成信は懸命に挽回しようと頑張ったが、明日1日で稲を植えなければ間に合わないところまで追い込まれてしまう。
- 翌日、成信が朝早くに畑に行ってみると、なんと、すっかり稲が植わっていて水もはられていた。しかし、肝心の稲の穂が逆さまだった。慌てて成信が女房に相談する。女房は慌てて稲の向きを直しに取り掛かった。あんまり一生懸命だったため、女房は白狐に戻っていたところを成平に見つかってしまった。女房は泣く泣く去っていった。
- 検見の役人が年貢を取り立てにやって来た。不思議なことに、成信の畑だけ稲が穂をつけなかったため、成信は税金を逃れた。しかし、役人が帰った後、稲は急成長してたわわに穂を実らせた。
狐女房のあらすじ!
むか~し、むかし。
ある山里に、成信(なりのぶ)というお百姓さんがおりました。
真面目で優しい若者でしたが、早くに両親を亡くして貧乏だったため、お嫁さんをもらえずにいました。
ある暑い夏の日のことです。
畑仕事をしていた成信のそばを、旅の姿をした娘がひとり、通りかかったと思いきや…
突然、娘が倒れこんでしまったではありませんか!
慌てて駆け寄った成信は、娘が高熱を出して倒れたことを知り、家につれて帰って、介抱してあげました。
2~3日後。
「これこれ、まだそんなことをしたらダメでねぇだか。」
「いいえ。おかげさんで、もうすっかりいいんですよ。」
娘は病気が治るやいなや、すぐに家の手伝いをしてくれました。
「あの…おめぇさまは、どこから来なすっただか?」
囲炉裏を囲んで、成信は娘に聞きました。
「はい。私は、ずっと遠くの山から…」
「で? 一人でどこへ行きなさるんだ?」
成信がたずねると、娘はしばらくうつむいて黙っていました。
が、やがて口を開きました。
「私はどこにも行くあてがないんです。
身寄りもありません。
もしよければ、私をここに置いていただけないでしょうか?」
そうしてその年の秋、めでたく二人は夫婦(めおと)になりました。
二人は一生懸命に働いたので、だんだん暮らし向きが良くなり、『もりめ』という、とってもかわいい男の赤ちゃんも誕生しました。
「成信は幸せものじゃ。
べっぴんの嫁ごもろたらば、ずいぶんの働き者じゃ。
子宝に恵まれたら、今度は男の子じゃ。
まったく、ありゃぁ、村一番の幸せ者じゃぁ…」
村の人達は成信をうらやましがりました。
ところがある日のこと。
なんと、もりめが、重い病にかかってしまったのです!
二人は夜も寝ずに、一生懸命、看病しました。
そのかいがあって、数日経つと、ようやくもりめは元気になりましたが…
成信は久しぶりに畑に出てみて、がっくりと肩を落としました。
荒れ放題で、田植えも出来ない状態に戻ってしまっていたのです。
それでも成信は女房に心配はかけまいと、何も言わずに働きました。
「なんとか、田に水をひくまでは来たが…」
成信は、ここに来て、ようやく女房に田んぼの話をしました。
「明日1日で、田植えが終わればのう…」
裁縫をしながら話を聞いていた女房がびっくりして成信を見ると、成信は疲れ果てて、こっくり、こっくりしていました。
次の日。
成信は、朝早く畑に行って、びっくり仰天!
なんと、一夜にしてすっかり稲が植えてあって、水も張ってあったのです。
そこまではいいのですが…
「一体、誰がこんなことを…!
おーい、大変じゃ!!」
成信は慌てて家に帰り、女房に言いました。
「苗が全部、逆さまに植わっとるだ!!」
「さかさま!?
…ちょっとお願いします!」
「ど、どうしただ?」
何を思ったか、女房は成信に抱いていたもりめを預けると、転がるように駆け出して行くではありませんか。
「おーい! どこへ行くだぁっ!?」
成信は、もりめをしっかり抱いたまま、慌てて女房の後を追いました。
着いた所は、苗が逆さまに植わってある田んぼでした。
「あっ、お前! 白狐(しろぎつね)!!」
女房は畑の周りを駆けずり回っているうちに、いつしか、きつねの姿に戻ってしまっていました。
しかしそんなことは気にせず、女房は、ただもう、一心不乱に歌いました。
♪ 世の中良かれ 我が子に食わしょ
検見を逃(のが)しょ つと穂で実れ
すると…
不思議なことに、田んぼの苗はあっという間に、みんなひっくり返って、正しく植え変わったではありませんか!
仕事を終えた女房は、ようやく人間の姿に戻りました。
田んぼの向こうには、もりめを抱いた成信が、呆然と立ちつくしています。
「…お前さま、許して下さいね。
私はお前さまが本当に好きでした。
でも、また、遠い山に帰らなければなりません。」
「お前…?」
「お前さま…さよなら。
もりめ、さよなら!」
「おーいっ!」
成信は女房に向かって叫びました。
けれど女房は、あっという間に白狐に戻ると、何度も振り返りながら、遠く遠く、空高く昇っていってしまいました。
成信の腕の中には、もりめだけが残されました。
その年の秋。
検見の役人が村に現れ、年貢を課すために村中の田や畑を見て回りました。
しかし、どういうわけか、成信の畑の稲だけは穂が出なかったため、年貢は免れました。
「あ…!!」
役人が帰った後、成信は、びっくり仰天!
稲の穂は急成長して、たわわに実ったのです。
♪検見を逃しょ(検見が年貢を取り立てるのから逃れましょう)
つと穂で実れ(逃したら、すぐに穂を実らせなさい)
女房が歌っていた歌詞の意味が、今、やっと分かりました!
成信は、もりめをおんぶしたまま、いつまでも稲を眺めていたそうです。
狐女房のまとめ、教訓と感想!
♪ 世の中良かれ 我が子に食わしょ
検見を逃(のが)しょ つと穂で実れ
『日本昔ばなし』を見終わった後、私の心には、いつまでもこの歌の不思議なメロディーと歌詞が鳴り響いていました。
『大好きな成信の間に出来た、大切な、大切な、もりめ。
自分はもうここから立ち去らなければいけないけれど、せめて、もりめだけは、大好きな成信のところで、お腹いっぱいご飯を食べられますように…』
という女房の愛情が、切ないほどに胸にしみてくるお話ですよね。
成信もまた、実に真面目で愛情深い男です。
この男のもとでなら、きっと、もりめはこの後も、幸せに、すくすく育っていったことでしょう。
大人になり、故郷を遠く離れてしまった私ですが、お母さんのあたたかな胸の中に、ぎゅっと包み込まれたくなってしまいました。
それにしても、一夜にして広い面積の畑にびっしり稲を植え、水まで張るなんて…
キツネの能力は、やっぱり、すごいですね。
稲のどちらを土に植えるかさえ知っていれば、この後もずっと親子仲良く暮らせたのに。
そう思うと
『いかにも動物らしくてかわいいな』
という気持ちと
『それさえなかったら…』
と悔やまれる気持ちが相反して、とても複雑な気持ちになりました。
『鶴の恩返し』や『蜘蛛女』でもそうだけど、どうして『正体がバレたら、どちらかが死ななければいけない』んだろう。動物と人間が仲良く一緒に暮らす方法ってないのかな?
なんだか哀しくなっちゃった。