蜘蛛女のサクッとあらすじ!
まずは、登場人物と簡単なあらすじを見ておこう♪
- 男…小間物(日用品や化粧品など)の行商人(お店を持たずに売り歩く人)
- 女郎蜘蛛(ジョロウグモ)…ずっと男の荷物に住み着いていた。女の旅芸人として男の前に姿を現す。
- 行商人の男の荷物の中には、一匹の女郎蜘蛛(ジョロウグモ)が住み着いていた。ある日、男は峠を歩いている途中に雨に振られ、峠のお堂に駆け込んだ。
- お堂のすみには、旅芸人の女がいた。男と女は一緒にお酒をくみかわす。話しているうちに、男は女が自分の荷物に住んでいた女郎蜘蛛(ジョロウグモ)の化身であることに気がつき、ぽろっと口に出してしまった。そして、女が弾く三味線を聴きながら寝てしまった。
- 正体がバレてしまった蜘蛛女は男を殺そうとするが、好きだったため、どうしても殺すことが出来なかった。
- 朝になり、男は蜘蛛が死んでいることに気がついた。
蜘蛛女のあらすじ!
むか~し。
小間物を風呂敷に包んで背負い、行商をして歩く男がいました。
その風呂敷の中には、一匹の女郎蜘蛛(じょろうぐも)が、こっそりと忍び込み、一緒に旅をしておりました。
男はひと晩かけて峠を越えようとしましたが、途中で雨が降ってきてしまいました。
そこで、慌てて山を下り、古いお堂に駆け込みました。
「とんだところで足止めを食っちまったが、
まぁ、夜が明けてからでもゆっくりと降りりゃぁいいとするか。」
そういって、男はタバコをふかして一息つきました。
ふと、お堂のすみを見ると…
「おや? 誰か、先客さんがいたかい?」
ろうそくの明かりの中、女の人がいることに気が付きました。
女の人は旅芸人で、「いと」という名前だと告げました。
とてもきれいな女の人です。
2人はすぐに仲良くなり、一緒にお酒をくみかわしました。
しかし、実は男は、商売柄、女をひと目見たときから、人間ではないと見抜いていたのです。
「さっきから考えていたんだが、姉さんに、どっか以前に会ったように思えて仕方がねぇんだがねぇ。」
と、かまをかけると、いとは
男とずっと一緒に旅をしていたこと。
ずっと昔、男に助けられたことがあること。
そして
今は昔と姿が変わっていること。
など、次々にヒントを与えてしまいました。
けれども男は
「まぁ、そんなこたぁ、どうでもいい。
これも、旅の味っていうもんだからね。」
と、あっけらかんとしています。
「嬉しいねぇ。ますます旦那にほれちゃいそうです。
…あら、嫌だ。言っちまったよ。酔いが回ったのかねぇ。」
と女は、ほほを赤く染めました。
女は男に助けられたときから、男を好きになって、おいかけていたのです。
女は照れ隠しに、三味線を弾き始めました。
「おいとさん。」
突然、男が言いました。
いとの弾く三味線の音を聞いているうちに、男は思い出したのです。
半年前、大蜘蛛にからまれて食われそうになっている女郎蜘蛛を、気まぐれに助けてあげたことを…
「…つまらねぇことを言って、せっかくの手を止めてしまった。ささ、やっておくんなぁ」
と男は言いました。
女はなぜか悲しそうな顔をしましたが、また、すぐに三味線を弾き始めました。
そのうち、男は三味線の音に心地よくなり、眠り始めました。
「旦那さん…」
いとは、眠っている男をじっと見つめていましたが、やがて、ぽつり、ぽつりと語り始めました。
「あたし達、化性の者(けしょうのもの。妖怪のこと)には、悲しい決まりがあるんです。
正体を人に見られちゃ、取り殺すか、自分が死ぬしかない…
せっかく一緒にやってきた旦那の命を取るのは悲しいけれど、どうぞ、悪い女にほれられたと思って、かんべんしてくださいな…」
いとは言い終わると、両手から糸を出して男の首に巻き付け、殺そうとしました。
しかし…
「……はぁ。
やっぱり私には旦那を殺すことなんか出来やしないよ…」
いとは、ためいきをつき、がっくりと、うなだれました。
「一緒に旅が出来て、私は楽しい思いをさせてもらいましたよ。
いつまでも、お達者で(お元気で)いてくださいよ…」
翌朝。
男は、お堂の床に一匹の女郎蜘蛛が死んでいるのを見つけました。
「おいとさん…」
男は、そっと女郎蜘蛛を手のひらに乗せました。
「どうしたもんか、よく分からんが。
ひょっとして、昨夜あっしが酔いに任せて余計なことを言っちまったせいかもしれんな…
おいとさん。
かんべんしてやっておくんな」
男は両手を合わせて、女郎蜘蛛を弔(とむら)いました。
そして、里を目指して歩いて行きましたとさ。
蜘蛛女のまとめ、教訓と感想!
昔話には、『つるの恩返し』など、『恩返し系』のお話がたくさんあります。
正体がバレたからと言って、どうして彼らは去っていってしまうのか、私は、長い間、不思議で仕方がありませんでした。
けれど、『蜘蛛女』を読んで、初めて理由を知り、愕然としました。
彼らは、大好きな人達を最後まで大切に思うがあまり、彼らのもとから去って、自ら死を選んでいたのです。
この昔話に出てくる男もまた、いとを傷つけるつもりなんて、これっぽっちもありませんでした。
ですが、もしも、気づいたとしても、
男が黙って見逃していたら、どうなっていたでしょうか?
もしかしたら、いとは死なずにすんだのかもしれません。
翌朝からも、大好きな男と一緒に、楽しく旅を続けられたのかもしれません。
そう思うと、とても悔やまれてなりません。
私達もまた、悪気なく、ぽろっと言った言葉で、知らずしらずのうちに誰かを傷つけていることが…
あるのかもしれませんね。
一度口から出た言葉は、取り返しがつきません。
十分に気をつけたいな、と思いました。
怖い話かな? と、思ったけど…
いとも、男も、優しすぎて、とっても切ない話だね。