子取りのサクッとあらすじ!
まずは、登場人物と簡単なあらすじを見ておこう♪
- 作兵衛…働きもせずにゴロゴロしているお百姓。趣味は博打。
- おたつ…作兵衛の妻。
- 子ども…作兵衛とおたつの子。2歳の男の子。
- 子取り…おたつが作ったお話。泣いている子どもを連れ去ってしまう妖怪。
- ごろごろしてばかりの作兵衛は、おたつに「少し働く気出さんな」とけしかけられる。作兵衛が働かないせいで、着物も食べ物も買えないのだ。作兵衛はおとっつぁんの所に行って、お金とくわを借りるが、借りたお金で賭博をしてしまう。一方、お腹が空いたと泣く子どもに、おたつは「そんなに泣いていたら『子取り』が取りに来る」と脅して泣き止ませる。
- 作兵衛は、夜になってもちっとも戻らない。おまけに子どもはより一層泣きわめく。おたつのイライラは頂点に達し、つい「取りに来い!」と子取りに向かって言ってしまった。
- 本当に大きな毛むくじゃらの手が出てきて、寝ていた子どもを襲った! おたつは間一髪、子どもを助けることに成功するが、あまりの強さに気絶してしまった。
- おたつから話を聞き、ようやく作兵衛は改心する。
子取りのあらすじ!
むか~し。
大分県の宇佐の村にお百姓の一家がありました。
作兵衛、おたつ、それに2歳になる男の子の3人家族です。
しかし作兵衛は働きもせず、一日中ごろごろしてばかり。
着物どころか、子どもが十分に食べるご飯もありません。
「なぁ、あんた。少し働く気出さんな。」
おたつが催促すると、作兵衛は、とっつぁんの所に行きました。
「んじゃと! お前、そりゃ、見当違いっちゅうもんじゃぁ!」
とっつぁんはため息のようにキセルの煙を吹き出して、作兵衛をにらみつけました。
「働きもせず、金貸してくれ、だと?」
作兵衛は正座してうなだれ、冷や汗たらたら。言う言葉もありません。
「いい加減にしろ!
子どもがいるから、今まで以上に働かにゃあいかんのじゃ!」
「…明日っから、働きますで…」
「明日からと言わず、今日から働け!
子どもにひもじい思いをさせちゃ、なんねぇっ!」
とっつぁんは『孫のために』と念を押して、お金を貸してくれました。
「ついでに、くわ貸してくれや」
作兵衛の言葉に、ついにやる気を出したかと思い、とっつぁんは喜んで畑を耕すくわも貸してくれました。
「しっかり働けや」
「へい!」
作兵衛はこのお金で子どもに服を買い、今日こそ働く決心をしました。
ところが…
習慣というのは恐ろしいもので、いつしか作兵衛の足は、いつもの丁半博打の賭場の家に向かっていました。
「作兵衛。素通りはなかろうが。」
親分が、扉を放って作兵衛を呼び込みます。
「だめだい! この金は、大事な金じゃけん!!
俺は今日限り、博打はせん! 働く決心をしたんじゃぁっ!」
「なにも『働くな』言うとるんじゃない。
少し遊んでから働きゃ、よか。」
「どうせとっつぁんから借りてきたのじゃろう。
倍にして返しゃぁよかろうが。」
親分は次から次に甘い言葉で作兵衛の心を惑わせます。
「…まっ、別に、お前の金だ。
どうこう言えた義理じゃねぇ。
好きにしろ!」
あっさり親分に扉を閉められてしまうと、もう作兵衛はたまりません。
「オラも仲間に入れてくれぇ!!」
とうとうくわを放り出し、賭場に入ってしまいました。
家では子どもがひもじがって泣いていました。
「うるせぇなぁ。泣くな。
そげぇ泣くと、子取りに取らすぞ。
ええのやな? 子取りに取らせてええのやな?」
おたつに言われて、子どもは泣くのをやめました。
「子取りっちゅうのはな、大きな袋を背中にかついだ毛むくじゃらの大男でな。
それが子供の泣き声を聞きつけると、
『泣く子はいねぇか? 泣く子はいねぇか?』
って、どこからともなく、やってくるとばい。
そんでな、泣く子がおるとつかまえて、袋の中に放り込んでな、どこかへ連れて行くとばい。
嘘じゃなかぞ?
だからな、父ちゃんが帰ってくるまで、泣かねぇで待ってよ」
おたつはそう言うと、子どもを優しく抱きかかえて自分も横になりました。
さて、こちらは、博打に夢中の作兵衛。
「やったぁ!!」
どうしたわけか、作兵衛は、面白いほど勝ちまくっておりました。
「作兵衛、おめぇ、ついてるじゃねぇかい。
今日限り博打はしねぇ、じゃと?
そのくせ、なんでこの前を通ったい?」
親分がおかしそうに聞きました。
「そりゃあ、畑に行こうと思ったからたい。」
「くっはっはっは…
おめぇんとこの畑は、こことは反対じゃねぇか。」
親分の言葉に、仲間も、にやにや笑いました。
ところが、作兵衛はけろりとして言いました。
「俺も嫌いじゃねぇもんな。
説教は、どうでぇよか」
「さぁ、いくぞ、いくぞ、いくぞ~!」
博徒(ばくと)が、景気よく叫びました。
そうこうしているうちに、いつしか日は、とっぷりと暮れていきました。
「どうした、作兵衛。もうやめとけ。」
親分が言いました。
作兵衛の前に山と積まれていたお金は、またもや、ごっそりと持っていかれてしまったのです。
手元には、小銭がたった2枚っきり。
「そろそろ、引き時じゃい。子供の着物買うんじゃねぇのかい?」
親分は心配して、もう一度忠告しましたが、作兵衛は叫びました。
「もう1回! もう1回だけたいッ!!
それでなきゃ、オラ、うちに帰れんっ!」
「本当にええんじゃな?」
仲間も聞きました。
作兵衛は、ごくりとつばを飲みました。
「ああ……」
「それ!」
ツボが静かに上へ上がり…
「あっ…
あああっ!!」
作兵衛は、冷や汗を流しながら、がっくりとうなだれました。
「まんまぁ!」
家では、また子どもが泣き始めました。
「起きたのかい。」
おたつはちょうど、箸でかきまぜておもちを作っている所でした。
「もう少しじゃで、泣くでねぇっ!」
おたつが言っても、子どもは一向に泣き止みません。
「あの人は何をしてるんじゃろう。
…うるさい、泣くなっちゅうに!
そげぇ泣くと、子取りに取らすぞ!!」
おたつが怖い顔で脅すと、子どもは火が着いたように、より一層激しく泣きじゃくりました。
「泣くな、泣くな!
泣き止まんと、本当に子取りに盗らせるぞ!
そら、今、やるぞ!」
言いながら、おたつは、だんだんイライラしていきました。
「おら、取りに来い!
取りにこーいー!!」
思わず、そう叫んでしまった時です!
ぐわぁっ!
天上につくかと思えるほどの、大きな毛むくじゃらの手が畳を突き破って生えてきました。
がしっ!
間一髪、おたつは子どもを抱きかかえて取り返しました。
毛むくじゃらの手は代わりにおもちをつかんで戻っていきました。
ふぅ~…
力が抜けて、ひざから崩れ落ちてしまったおたつ。
「どうしたぁっ! おたつっ!!」
そのとき、ようやく作兵衛が帰ってきました。
「あんたぁ…」
「気が付いたか? 良かったぁ…」
作兵衛の腕の中で意識を取り戻したおたつは、今見た恐ろしい話を、一部始終、話してきかせました。
「あぁ… 貧乏はしたくねぇもんたい。
そげな幻にまで脅かされるとは…!!
明日っから、オラ、精出して働くばいっ!
すまんかった、おたつっ!!」
それから、作兵衛は博打から手を引き、一生懸命、働くようになりました。
おたつも『貧乏で気が立っても、もう二度と嘘をつくのはやめよう』と固く決心したそうです。
子取りのまとめ、教訓と感想!
昔話には怖いものも結構ありますが、これはダントツで怖い昔話だと思います。
ひとつめの怖さは、おたつが子どもに言っていた『子取り』が本当に出てきたシーン。
暗い画面の中に、いきなりぐわぁっと毛むくじゃらの手が襲ってきたので、本当にやられてしまうような鳥肌が立ちました。
間一髪、『子取り』から子どもを救い出したおたつの反射神経は、お見事、というしかありません。
「なんとしてでも子どもを助けたい」というお母さんの強い愛情も感じました。
ふたつめの怖さは、ギャンブルです。
作兵衛は、冒頭では着るものも食べるものも困っていたにも関わらず
「ぜいたく言うな!」
と怒鳴りつけた挙げ句に、とっつぁんにお金をたかりに行き、そのお金もギャンブルですってしまっていました。
なので
『ギャンブル依存症か!?』
と一瞬疑ってしまいました。
おたつが気を失っていたのを見てからは人が変わったかのように優しくおたつに話しかけ、自らギャンブルから足を洗うことができたそうなので、ほっと一安心しました。
ギャンブルは、本当に怖いです。
特に怖いのは、カジノなど、お金を巻き上げる上手なディーラーとさしで向き合うギャンブルです。作兵衛がはまっていた『丁半賭博(ちょうはんとばく)』もそのひとつ。『丁半賭博』というのは、ツボにサイコロを2つ入れ、出た目の合計が丁(偶数)か半(奇数)かを当てるゲームです。
『最初にうんと勝たせて乗り気にさせてから、すっからかんになるまで巻き上げる…』
という描写があったので、きなくさい臭いがプンプンしました。
ギャンブル依存症は、自覚がありません。
どんなに借金しようが
『ギャンブルで取り返せる』
と自分で自分に言い聞かせ
『自分はギャンブルが趣味なだけだ。 いつでもやめられる』
と信じてしまっているからです。
また、勝つと脳からドーパミン(かなり強い快楽をもたらす物質)が出るのが、やっかいな所。
家族や心理カウンセラーなどと手を組んで治療を開始しても、完治は出来ないそうです。
仕事などでストレスがかかると、本人が抑えきれないくらいに『ギャンブルで一発当てて、うさ晴らししたい』という欲求が高まってしまうのです。
自分で自分を滅ぼしてしまうのはもちろん、周囲の人間まで地獄に陥れてしまう依存症。そうならないように気をつけなくちゃ、と、改めて身が引きしまる思いがしました。
妖怪も、もちろん怖いけど。
結局『一番怖いのは人間』っていうことなのかなぁ…?