とろかし草のサクッとあらすじ!
まずは、登場人物と簡単なあらすじを見ておこう♪
- 清兵衛(せいべえ)…木こりをしている男。うわばみが人を飲みこむ姿を見たが生還した。
- 長者どん…そばの大食い大会を持ちかけた。
- 木こりの清兵衛は、ある日、うわばみが旅人を丸のみするのを目撃する。お腹がふくれて苦しくなったうわばみは、黄色い葉っぱを食べてスッキリ胃の中の物を消化していた。清兵衛は村に帰って、村人達に目撃談を語る。村人達は清兵衛が生還できたお祝いに、おそばをつまみに酒をくみかわした。
- 長者どんが、『一度にこのどんぶりで5杯、そばを食べられる者がおったら、田畑(でんぱた)1反(たん)出してもいい!』と言う。清兵衛はおそばが大好き。おまけに、うわばみが食べていた『とろかし草』も、こっそり持ってきていたから、十分に勝算があると確信して名乗りを上げた。
- 3杯までは食べられたが、4杯目がどうしても入らない。清兵衛は便所に行き、トイレをするふりをして、持ってきた『とろかし草』を食べ、胃の中のそばを消化しようとした。
- しかし、いつまでたっても清兵衛が便所から戻らない。村人が見に行ったところ、便所の中には清兵衛の着物だけが残っていた。なんと『とろかし草』は、『胃の中の物』ではなく『人間』を溶かす草だったのだ!
とろかし草のあらすじ!
むか~し、むかし。
清兵衛という木こりが木を切っておりますと…
どしん! どしん!
大きな地響きが鳴り響いてきました。
「助けてくれー!」
ものすごい形相で、こちらのほうに逃げてくる旅人。
後ろからは、大きな大蛇が追いかけてきます。
あれが、噂の『うわばみ』です!
助けてくれ、と言われても、清兵衛にはどうすることもできません。
わが身大事と、急いで木によじのぼるのが精一杯でした。
清兵衛の目の前で、可哀想に、旅人は、ぺろりと、うわばみに丸のみされてしまいました。
うわばみは、こぶのように、ぷっくりとふくらんだお腹を抱え、苦しそうに草むらをはっていくと…
なにやら、黄色い草を食べ始めました。
すると…
なんと、あんなにふくれていたうわばみのお腹が、みるみるうちに、スッキリと元の大きさに戻っていくではありませんか!
「あの草は、食べた物をとろかす(溶かす)だ!」
うわばみが帰った後、清兵衛はうわばみが食べていた草をひとつかみ、そっと懐に入れました。
そして、草の話はせずに、ただ、うわばみを目撃した話だけを村人達に話して聞かせました。
村人達は、清兵衛の家に集まり、命拾いのお祝いの宴を開いてくれました。
とは言え、山の村のことですから、ごちそうなんて出てきません。
お酒と、手打ちそばだけです。
そばのどんぶりを見つめていた男が、ふと、こんなことを言い出しました。
「あのどんぶりに山盛りに盛ったそばを、5杯、立て続けに食べられるかのう?」
「5杯と言ったら、5升(しょう)だぞ! 食べられるわけがないわ。」
バカを言うな、と村人達は笑いました。
それを聞いた、長者どん。
こいつは面白そうだと、大食い大会を持ち掛けました。
「いっぺんに5杯いける者がおったら、田畑(でんぱた)1反(たん)出してもいい!」
「長者どん。いくらなんでも、そりゃ無理じゃよ。うわばみじゃあるめぇしよ。」
村人達は顔を見合わせて、より一層笑いました。
しかし…
(田畑1反か…悪くねぇな…)
「よし! ワシがやってやるわい!!」
なんと、清兵衛が名乗りを上げたのです!
「清兵衛どん、やめとけ。いくらお前がそば好きでも、そりゃ、無理じゃよ。」
村人達が止めても、清兵衛は聞きません。
ジャバジャバと、どんぶりのそばにそばつゆをかけると、ずるずる、そばをすすり始めました。
その豪快な食べっぷりに、言い出しっぺの男は、すっかり感心して言いました。
「へぇ、大したもんじゃねぇかよ。
あれはそばを食ってるんじゃねぇ。そばの方から口の中に入ってるんだよ。
我々には、あぁはいかねぇ。」
しかし、清兵衛は2杯めから苦しそうにし始めました。
「清兵衛どん! 大丈夫か? 肩で息しちゃってよう!」
「清兵衛どん、もうやめろよ! もう無理だよぉっ!」
清兵衛は、冷や汗、たらたら。
「こうなったら命がけじゃぁ!」
「命がけなんて、穏やかじゃねぇなぁ。おい。」
清兵衛は3杯までは根性で食べました。
が、4杯目からは、どうしたって入りません。
「ちょっくら、便所行ってくるけん!」
風船のようにふくらんだお腹を抱えて、便所へ逃げ込んだ清兵衛。
ふぅ…大きなためいきをつくと、懐から草を取り出しました。
昼間、うわばみが食べていた、あの草です!
こいつでお腹をスッキリさせれば、あと1杯くらい、余裕でおそばを食べられる、という算段です。
ところが…
いくら待っても、清兵衛は便所から出てこないではありませんか。
「おーい、清兵衛どん! 清兵衛どん!」
「いつまで便所に入っとるんじゃい?」
村人たちは心配になって便所の周りに集まりました。
清兵衛の名前を呼びながら扉を叩きましたが、中からは、ことりとも音がしません。
「かまわねぇから、のぞいてみな!」
そう言われて、扉を叩いていた男が窓から中をのぞきこむと…
「いねぇ! いねぇだよ! 便所の中は空っぽだ!!」
男は、後ろの村人と顔を見合わせました。
「清兵衛どん!」
やおら、男は便所の扉をこじ開けました。
「清兵衛どん…!!」
なんと、便所の中には、清兵衛どんが着ていた着物だけが残されていました。
うわばみが食べていた草は、『胃の中の物を溶かしてくれる草』ではなくて『人間を溶かしてしまう草』だったのです。
とろかし草のまとめ、教訓と感想!
これは阿波(あわ:現在の徳島県あたり)に伝わる民話です。
『蛇含草(じゃがんそう)』や『そば清(せい)』という落語のもととなっている話だと言われています。
落語『そば清』では
『山盛りのそばが羽織を着ていた』
というオチで終わっています。
面白おかしく軽快に語られるので、最後はもちろん、爆笑しておしまいになるのですが…
こうして改めて原話を聞くと、怖いですよね。
目の前で大きなうわばみが旅人を丸のみしてしまうシーンも衝撃的でしたが、ラストはそれを上回る衝撃的なお話でした。
1升は10合。おもちなら、ざっと10人分はあります。
その5倍ですから、50人前のおそばです。
想像するだけで嫌になるくらい、すごい量ですよね。
それを完食した時にもらえる商品は、田畑(でんぱた)1反(いったん: 300坪)。
上手くいけば、大人1年分のお米が収穫できます。
とは言え、もちろん、農作業の手間暇はかかりますし、その分、年貢も重くなるので…
お百姓ではない私には、そもそも、それがいい話なのかどうかさえ、よく分かりません。
しかし、少なくとも、村人達にとってはかなり美味しい話のようですね。
それにしても…
人間を丸のみした、恐ろしい蛇の化け物が食べた草。
それを、人間が食べるなんて…
誰一人、人体実験をしておらず、それを食べたら、どんな副作用が出るか分からない、恐ろしい草ですよ。
私だったら、いくら豪華な賞品を目の前にぶら下げられても、そんな草、絶対に食べたくありません。
ましてや、大食い大会のアイテムに使おう、なんて気には、さらさらなりませんが…
あなたなら、いかがですか?
ちなみに、盛岡市のわんこそばの最高記録保持者は、中嶋博文さんです。
60分以内の大会で、559杯食べました。
わんこそば15杯でもりそば1枚換算なので、盛りそば37枚分、ということになります。
すごいなぁ、と感心しますが、落語『そば清』で最後に持ち掛けられたのは50枚です。
さすがのギネス記録保持者でも不可能な量、ということですね。
普通にやったら絶対にできない量を上げて『それが出来たら、このごほうびをつかわす』なんて、本当に意地が悪いなぁ、と思いました。
とろかし草の副作用で溶けてしまった時、清兵衛は痛かったのかな?
それとも、村人達が清兵衛の悲鳴を聞いていなかった、ということは、気づいたら溶けて消えてしまっていた、ということなのかなぁ?
どちらにしても、怖いよね。