とうせん坊のサクッとあらすじ!
まずは、登場人物と簡単なあらすじを見ておこう♪
- とうせん坊…いじめられながら育つ。観音様に巨大な力をもらうが、復讐心に染まり、最後は村人に殺されてしまう。
- 村の子供達…両親のいないとうせん坊を、いつもいじめていた。
- 四人の男達…とうせん坊をだまして酔わせ、崖の下に落として殺した。
- みなし子のとうせん坊は寺に預けられていたが、子どもたちや、和尚、小僧からいじめられたあげく、とうとう寺から追い出されてしまった。
- とうせん坊は観音様にお願いし、100人力のパワーをもらう。これでみんなからバカにされずにすむと思ったが、相撲大会で周囲からひどい罵声を浴び、気がつくと何人もの男達を怪力で殺してしまっていた。
- 村人からの更なる仕打ちに、とうせん坊はキレて悪事を働くようになってしまった。
- とうせん坊は、村人からの罠にハメられる。断崖絶壁から落とされて、命を失ってしまう。
とうせん坊の昔話あらすじ!
岩手県の小さなお寺(おそらく、高松寺)で、とうせん坊は育ちました。
とうせん坊には、お父さんも、お母さんもいません。
大男で動作が遅いとうせん坊に、村の子供たちは
「大飯食らいの、役立たず!」
とはやしたてながら、雪玉をぶつけます。
とうせん坊は反撃せずに、大きな体をちぢこめて、しくしく泣いて暮らしていました。
また、とうせん坊は、お経を覚えられなかったので、和尚や小僧からもいじめられ、しまいには寺から追い出されてしまいました。
「観音様。
どうかオラに、10人力、いや、100人力の力をくだせぇ…!!
オラ、天下一の力持ちになって、世間の奴らを、あっと言わせてやりてぇ…!!」
とうせん坊は観音堂にお参りして、100日間のおこもりをしました。
すると…
とうせん坊の夢の中に、観音様がおいでなさいました。
まりをついていらっしゃいます。
ぽん…
ぽん…
とうせん坊が嬉しそうにそれをながめていますと、そのまりが、とうせん坊の懐(ふところ)に飛び込んできました。
お腹がぺこぺこのとうせん坊は、むしゃむしゃと、そのまりを食べました。
目を覚ましたとうせん坊の体には、ものすごいパワーがみなぎっていました。
「オラぁ、100人力だぁ! 観音様。ありがとう。」
とうせん坊は、涙を流して喜びました。
これで、みんなからバカにされなくてすむと思ったのです。
ある秋の日、とうせん坊は、村の奉納すもうに参加しました。
しかし、土俵に上がったとうせん坊を待っていたのは、拍手ではありませんでした。
「この役立たず! うすのろぉ!
大男に投げられて、べそかくなよ!」
戦う前から、みんなにバカにされてしまったとうせん坊は、怒りで我を忘れてしまいました。
気がつくと、何人もの男達を怪力で殺してしまっていたのです。
すると今度は
「人殺しぃ!」
村人たちは、とうせん坊に、てんでに石を投げつけました。
「オラを殺すつもりか! 分かっただよぉっ!!」
とうせん坊はそう言って、山にこもりました。里には下りてきませんでした。
ところが、村の男たちは、そんなとうせん坊の行方を追っていました。
そして、とうせん坊の留守を狙って、家の中に忍び込むと、鍋の中に、なんと、うんこを塗りたくったのです!
この時からでした。
とうせん坊が、怒り狂って、暴れ始めたのは!
とうせん坊は、松明を片手に、カタカタと一本足のゲタを鳴らして村や町をかけめぐりました。そして、犬や馬を殴り殺し、家々に火を放ちました。
旧暦の3月。天神祭(てんじんまつり)の最中も、とうせん坊は悪事を働いてしまいました。
とうとう、とうせん坊は、故郷(ふるさと)にいられなくなってしまいました。
それから数年後。
とうせん坊は、越前(えちぜん)に住んでいました。
とうせん坊は、『東尋坊(とうじんぼう)』という岬から眺める景色が大好きでした。
桜が舞い散る、ある春の日のことです。
いつものように、とうせん坊が岬に行くと、四人の男達が宴会をしていました。
「これは、これは、どこのお方か存じませんが、一緒にいかがかな?」
男の誘いに、とうせん坊は驚き、喜びました。
「今まで自分を見ただけで怖がって逃げていった人間たちが、この村では、親切にお酒をふるまってくれるのか!
あぁ、えぇ気分じゃ…」
とうせん坊は久しぶりのお酒にすっかり酔っ払い、ごろんと横になりました。
遠く空を見上げると、子守唄が聞こえてきます。
とうせん坊の灰色の心に、ほんのりと温もりが蘇ってきました。
ところが…
「起きろ、とうせん坊ッ!」
そのとき、突然、男達の怒鳴り声がしました。
驚いて目を覚ましたとうせん坊は、自分の体が、縄でぐるぐる巻きにされていることに気がつきました。
「しっ、しまったァ…!! 動けんッ!!」
仲良く宴会、なんて、真っ赤なウソだったのです!
「くそ、くそッ、くそ…ッッ!!」
悔しがるとうせん坊の体を、男達は、かついでいきます。
とうせん坊の脳裏に、走馬灯のように、今までされてきたいじめの数々が浮かび上がりました。
とうせん坊の体は、男達によって、崖の下へと投げ落とされてしまいました。
「おっかぁ! おっかさーん!!」
と助けを呼ぶ、とうせん坊の叫び声だけを残して。
それからというもの。
毎年、とうせん坊が殺された春になると、台風が村を襲うようになりました。
人々はそれを『とうせん坊』と言って恐れました。
とうせん坊の怨霊は、今もこの世をさまよい続けているのです。
とうせん坊のまとめ、教訓と感想!
毎年4月8日になると、仏教の宗派の人々は『降誕会(ごうたんえ)』(お釈迦様のお誕生日を祝うお祭り)を開きます。
とうせん坊が呼ばれたのは、その宴会だったのです。
今でも、岩手県では、4月8日頃になると、決まって天候が悪化します。
激しい雷雨。
ザブンザブンと岩を叩きつける荒波。
そして、平泉町の中尊寺を尋(たず)ねるかのように、東に向かって強風が吹き荒れていくのです。
地元の人々はこれを『とうせん坊』と呼び、大変恐れています。
その由来が描かれている昔話が、この『とうせん坊』です。
『とうせん坊』は、1978年12月に、『まんが日本昔ばなし』でも放送されました。
突然画面にあらわれる、おどろおどろしいタイトルと、BGM。
次の瞬間には、松明を持ち、一本足のゲタをはいて飛び回る、とうせん坊が現れます。
鬼のような形相のとうせん坊は、村の家々に火を着け、動物を次々に殺し…
という、流血のシーンが流れていきます。
泣きわめく、村の子供たち。
その間、約1分間。
ナレーションは、一切入りません。
視聴者は、驚きとともに、何が起きたのかも分からないまま、ただただ、恐怖で震えていることしか出来ないのです。
あまりにも怖くて悲しいお話なので「放送禁止になった」という、うわさもあります。
しかし、『まんが日本昔ばなし』の中では描写されませんでしたが、実は、このお話はもっと恐ろしいお話なのです。
なんと、とうせん坊をだまして崖から突き落とした時、四人の男達もまた、巻き添えをくって崖から落ち、亡くなってしまったというではありませんか!
しかも、その断崖絶壁とは、福井県 坂井市の『東尋坊(とうせんぼう)の絶壁』。
実際に存在する、『自殺の名所』なのです!!
崖から落とされてしまった「とうせん坊」の怨念が、未だに、さまよい続けているのかもしれませんね。
しかし、このお話は、ただ怖いだけのお話でしょうか?
『とうせん坊は殺されても仕方のない、悪いヤツ』なのでしょうか?
……いいえ、違いますよね。
子どもたちにいじめられても、一切反撃をしなかった、優しい、とうせん坊。
両親からの、そして周囲からの愛情に飢え、ただひたすら、自分を認めて欲しかった、とうせん坊。
そんな純粋な気持ちを持つ彼を、ここまでの恐ろしい怪物にしてしまったのは、他ならぬ、村の人々です。
もしも、彼が小さい頃から、村のみんなが、彼に優しく、温かく接してあげていたら…
もしも、すもう大会の時に、ちゃんと彼を拍手で迎え、勝つたびに
「すごいね!」
と認めてあげていたら…
きっと、とうせん坊のその後の人生は、大きく変わっていたことでしょう。
観音様からいただいた凄いパワーを、村の人達のために使ってくれていたかもしれません。
とうせん坊も、もちろん怖いですが、私は、村の人たちのほうが、ずっと怖いと思います。
逃げたとうせん坊をストーカーして家をつきとめたり。
彼が留守の間に集団で家の中に忍び込んで、中をめちゃくちゃに荒らしたりするなんて…
それだけでも、許されざる犯罪です。
なのに、村人たちは、それだけでは飽(あ)き足らず、しまいには、とうせん坊をだまして崖から突き落とすなんて、本当に信じられません。
四人の若者は
「村を守るため」
なんて、大義名分をかかげていたと思いますが、とんでもありませんよね。
最後の最後で、人に優しくしてもらった時、とうせん坊は、どんなに嬉しかったことでしょう。
そして、裏切られたと知った時は、どれほど深く傷ついたことでしょう。
自分の生まれた日にそんな惨劇をご覧になったお釈迦様も、また、彼らを見て、どんなにお嘆きになられたことでしょうか。
人はみんな、仏の魂を抱いて生まれてきます。
今、悪いことをしている人も、魂の修行が足りないだけで、仏の心がちゃんと宿っているのです。
人は一生をかけて、己の魂を磨いていきます。
それが、人生です。
良い人になるには、もちろん、悪いことを悔い、改める、本人の努力が欠かせません。
しかし、それだけでは、人はなかなか立ち直れない生き物です。
一番大切なのは、周囲の人が彼をあたたかく包み、励まし、サポートしてあげることです。
とうせん坊さん、可哀想。
一番怖いのは、幽霊でも、妖怪でもなくて、いじめても平気な、人の心なのかもしれないね。
すべての人が、笑顔で、お互いに助け合える世の中を作っていこうっ!