やまんばのにしきのサクッとあらすじ!
まずは、登場人物と簡単なあらすじを見ておこう♪
- やまんば…ちょうふく山のてっぺんに住んでいる。『恐ろしい』という噂だが…!?
- だだはち&ねぎそべ…若者代表で、やまんばに餅を持っていく。
- あかざばんば…やまんばの家へ案内役を買って出る。
- がら…やまんばが産んだ赤ん坊。産まれてすぐに風のように早く走ることが出来た。
- 十五夜の夜、ちょうふく山のやまんばが赤ちゃんを産んだ。『お祝いにお餅を持ってこなければ、人も馬も食い殺してしまう』と伝えられ、村人達は急いでお餅をつく。あかざばんばが道案内をし、だだはちとねぎそべがお餅を持っていくことになった。
- しかし、普段は暴れん坊のいばりん坊な、だだはちとねぎそべだが、いざとなると、とんと意気地がない。結局、あかざばんばを一人ぼっちで山に残して逃げ帰ってしまった。あかざばんばは意を決して、一人でやまんばの家まで歩いて行った。
- やまんばの家に着き、昨夜村人を怖がらせた正体は、産まれたてのやまんばの赤ん坊『がら』であったことを知る。やまんばは、あかざばんばが来てくれたことを歓迎し、お餅とクマの肉が入ったすまし汁を作ってふるまってくれた。しかし、いざ、あかざばんばが帰ろうとすると、やまんばに、21日間、お手伝いをするように頼まれてしまった。
- あかざばんばは、21日間、やまんばのもとで家事を手伝った。食われやしないかとびくびくしていたが、身の危険を感じることは全く起きなかった。やまんばはお土産に『やまんばの錦』をプレゼントしてくれ、がらは、あかざばんばをおんぶして家の前まで送ってくれた。
やまんばのにしきのあらすじ!
むか~しむかし。
ちょうふく山のふもとの村では、『山の中に恐ろしいやまんばが住んでいる』という噂が流れていました。
ある年の十五夜の夜のことです。
みんながお月見を楽しんでいると、にわかに空がかき曇り、風が吹いて、雨が降り出しました。
しまいには、ひょうまで音を立てて降ってきました。
子どもたちは驚いて、頭から布団をかぶり、抱き合って震えました。
そのうち、風が
ゴォォォ~!!
と吹いたかと思うと、何者かが家々の屋根の上を飛び回りながら叫び始めました。
「ちょうふく山のやまんばが、子ども産んだで、餅ついてこ~!
ついてこねば、人も馬も、みな、食い殺すどぉ~!!」
朝になると、村人達はお米を持ち寄り、慌ててお餅をつきました。
そして、平たい桶(おけ)2つ分のお餅を、村きっての暴れん坊の、『だだはち』と、『ねぎそべ』の二人に持って行かせることにしました。
怖くなっただだはちと、ねぎそべは
「でも、オラたち、道を知らないし…」
と言いましたが
「それなら、おらが一緒に行ってやるべ。
なぁに、行こうと思えば、道なんぞ、いくらもあるもんだ。」
70いくつの、『あかざばんば』というおばあさんが案内役を買って出ました。
こうなってしまっては、普段いばってばかりいる二人は、もう弱音を吐けません。
二人は顔を見合わせて、ためいきを吐きました。
そして、あかざばんばを先頭に、だだはちと、ねぎそべは、お餅をかついで行くことになりました。
だだはちと、ねぎそべは、しばらくはやせ我慢をして平気な顔をしていましたが
びゅぅぅぅぅ~!!
気味の悪い風が吹くと、震え上がってあかざばんばにしがみつきました。
「なんの、なんの。
なんでもねぇと思えば、なんでもねぇもんだ」
あかざばんばは二人を励ましました。
しかし、しばらく行くと、もっと強い風が吹いてきました。
あかざばんばも、たまらず、木の根にしがみつきました!
やっと風をやり過ごせた、と思ってふと振り返ると…
そこには、お餅を入れた桶だけが、ぽつんと重ねて置いてありました。
だだはちも、ねぎそべも、逃げ帰ってしまったのです。
あかざばんばも途方に暮れ、とうとう、しゃがみこんでしまいました。
(…しかし、オラまで村へ逃げ帰れば、村中の人も馬も、皆、食い殺されてしまうかもしれねぇ。
それじゃぁ、申し訳ねぇ。
オラが食い殺されればすむことだ)
あかざばんばは、そう固く決意すると、えっちら、おっちら、また山を登り始めました。
そうして、日の暮れる頃、ようやく山のてっぺんにつきました。
遠くに、入り口にこもが下がっている小屋が見えます。
小屋の前では、大きな赤ん坊が一人、自分の頭ほどもある大きな石をおもちゃにして遊んでいました。
「ごめんくだされ。
ふもとの村から、餅持って来たす」
戸の前であかざばんばが言うと、こもが上がり、やまんばが顔を出しました。
「よぉ来た、よぉ来た。
昨夜この子を産んでな、餅が食いたくなってこの子を使いに出したが、村の人達に迷惑かけなかったかと案じていたとこだ」
「ひゃぁ~! この赤ん坊が、昨夜、使いに来たので?」
あかざばんばは驚きました。
「やまんばの子だもの。産まれれば、すぐ、飛んで歩くだ。
…して、餅はどうした?」
「へぇ… その餅だが、あんまり重たくて、山の途中に置いてきた。」
「そうか。がら、お前、行って、取ってこ?」
昨夜産んだ赤ちゃんは、『がら』という名前がつけられていました。
がらは立ち上がったかと思うと、すぐにお餅の入った桶をかついで帰ってきました。
その、早いこと、早いこと!
やまんばは、がらに、クマも獲ってこさせ、お餅入りのすまし汁を作ってあかざばんばと、がらと、三人で食べました。ほっぺたが落っこちそうになるほど美味しい、すまし汁でした。
「オラ、これで村へ帰りたいけんども…」
あかざばんばが言うと
「なぁに、そんなに急ぐこたぁねぇ。
ここには手伝いもいねぇから、21日ほど、手伝ってくれや」
と、やまんばにお願いされてしまいました。
今日、食われるか。
明日こそ、食われるか…
あかざばんばは怯えながらも、家事を手伝いました。
しかし、何事もなく、あっという間に21日経ちました。
そこで、あかざばんばは
「うちでも心配してるべから、帰りたいども…」
と、やまんばに言いました。
「そうかぁ。
迷惑かけたなぁ。」
やまんばはあかざばんばにお礼を言って、見事な錦をくれました。
「この錦はな。
なぁんぼ使っても、次の日はまた元通りになる。不思議な錦だ。
村の人達には、なぁにもねぇども、誰も風邪一つひかねぇように、オラの方で気をつけてるで」
やまんばは、がらに、あかざばんばを送るように言いました。
がらは、遠慮して断ろうとするあかざばんばを、ひょいっと背中に乗せると
「目ぇふさいでれ」
と言いました。
あかざばんばは急いで目をつぶり、がらの背中にしがみつきました。
耳のあたりに、どうどうと風が吹いていき…
とん、と、あかざばんばは地面に下ろされました。
目を開けてみると…
なんと、まぁ。
そこは、あかざばんばの家の前でした。
「がら、休んでけ」
とあかざばんばが言ったときには、すでに、がらの姿はありませんでした。
あかざばんばが家の中に入ろうとすると
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」
中からお経をあげる声が聞こえました。
泣く声もします。
「誰か死んだかや?」
あかざばんばが驚いて入っていくと…
「ひぇ~! 幽霊だ! 魂がかえってきたど~!!」
集まっていた村人達は驚いて、目をむいたり、ひっくり返ったり、もう大騒ぎになりました。
「幽霊なものか。オラだ。あかざばんばが、今、戻っただ」
村の衆は、あかざばんばが無事に生還してきたことを知ると、泣いて喜びました。
「さぁさぁ。
やまんばの錦をやるべ」
あかざばんばは、村人達に錦を切り分け、自分の手元には少ししか残しませんでした。
村人達は大喜びで、錦を家宝にしました。
そして、やまんばの言ったとおり、あかざばんばの手元の錦は、翌日には、何事もなかったかのように元の分量に戻っていました。
それからというもの、村人達は風邪も引かず、幸せに暮らした、ということです。
やまんばのにしきのまとめ、教訓と感想!
これは秋田県に伝わる民話です。
1967年5月に、松谷みよ子さん作、瀬川康男さん絵で、絵本としてポプラ社から出版されました。
そして翌年には『厚生省 児童福祉文化奨励賞』を受賞。
全国学校図書館協議会 第21回『よい絵本』に選ばれました。
がらの暴れん坊ぶりには困ったものです。
おかげで、やまんばは『噂通りの怖い人』というイメージが村人により強く植え付けられてしまいました。
しかし一方で、生まれたての赤ちゃんの、全身からほとばしる強い生命力を端的に表しているような気もしますよね。
産まれたばかりで、もう元気いっぱいに走り回るなんて、さすがは、やまんばの子!
お餅やクマをとってきたり、あかざばんばを家まで送ったりと、お母さんの言うことをよく聞く、とても素直な赤ちゃんです。
きっと、村人達に知らせたときも、がら自身には
『村人達を怖がらせてやろう』
などという悪意は、これっぽっちもなかったのでしょう。
あかざばんばを見ていると、おばあちゃんって、昔も今も強いなぁ! と、しみじみ考えさせられます。
「行こうと思えば、道なんぞ、いくらもあるもんだ。」
「なんの、なんの。
なんでもねぇと思えば、なんでもねぇもんだ。」
というあかざばんばの言葉は、名言だと思いました。
村を救うために、たった一人でやまんばに立ち向かう姿も勇敢で素敵ですよね。
それにひきかえ、若者代表の、だだはちとねぎそべは、情けない…
普段いばっているくせに、肝心なところで役に立たず、あかざばんばにしがみついたり、しまいには、あかざばんばを山の中に置いてきぼりにしてしまいます。
ここらへん、『うばすて山』のようなニュアンスがして本当に嫌でしたが、二人を反面教師にして、もっとお年寄りには親切に接してあげたいな、と痛感しました。
また、村人達からあんなに恐れられていたやまんばですが、あかざばんばにすまし汁をごちそうしたり、お土産に錦をくれたりと、実に人間味があるあったかい人ですね。
あかざばんばのことです。
きっと、村人達が抱いている『やまんばは怖い』というイメージも、きっと払拭してくれたことでしょう。
いわば、あかざばんばは、山に住むやまんば&がらと、村人達の間の架け橋ですね。
あかざばんばの生還を泣いて喜ぶ村人達も含めて、それぞれの登場人物が実に生き生きと描かれているお話だな、と思いました。
いつの時代も、お年寄りは一番知恵があって、肝っ玉が座ってるね。
9月の第3月曜日は、敬老の日かぁ。
今年は何をプレゼントしてあげようかなぁ。